例えば、関節円板のズレが原因であれば、スプリント療法や顎関節の動きを改善する運動療法が有効です。筋肉の問題が主であれば、薬物療法(筋弛緩剤など)や理学療法が中心となります。顎の骨に変形が見られる場合は、経過観察や、重症であれば外科的治療も視野に入れます。これらの診断と治療の判断には、顎関節症に関する専門知識と経験が不可欠であり、それを最も有しているのが歯科口腔外科医なのです。では、他の科ではなぜ十分な対応が難しい場合があるのでしょうか。「一般歯科」でも顎関節症の相談は可能ですが、専門的な検査機器や治療法の種類が限られる場合があります。軽症であれば対応可能でも、多くの場合、専門性の高い歯科口腔外科に紹介されることになります。「整形外科」は全身の関節を扱いますが、顎関節は体の他の関節とは異なる構造と機能、そして歯科的な要因との関連が強いため、整形外科医が顎関節症を専門的に診ているケースは稀です。顎の痛みが、頚椎の異常や神経痛など、他の整形外科領域の疾患と関連している可能性を鑑別するために受診することはありますが、顎関節症そのものの専門治療は期待できません。「耳鼻咽喉科」は、顎関節の近くにある耳の痛みや耳鳴りといった症状がある場合に、それらが耳鼻科的な原因によるものか、顎関節症によるものかを鑑別するために受診することがあります。しかし、耳鼻咽喉科は顎関節そのものの治療は行いません。耳鼻科的な異常がなければ、歯科口腔外科への受診を勧められるでしょう。精神的なストレスが顎関節症に大きく関与している場合、「心療内科」や「精神科」が治療に関与することもありますが、これはあくまでストレス管理など精神面からのアプローチであり、顎関節の直接的な治療は行いません。したがって、顎関節症の症状が出た際に最も適切な受診先は、専門的な診断と治療が可能な「歯科口腔外科」です。特に、大学病院や総合病院に設置されている歯科口腔外科は、様々な症例に対応できる体制が整っており、高度な医療機器や専門医が揃っているため、安心して受診できます。医療機関を選ぶ際は、その医療機関が顎関節症の診療に力を入れているか、専門医がいるかなどを事前に確認すると良いでしょう。ウェブサイトの情報や、かかりつけの歯科医からの紹介なども参考にできます。