インプラントとMRIの関係を考える上で、インプラントに使用されている「金属」の種類は非常に重要な要素です。MRI(磁気共鳴画像診断装置)は、強力な磁場を利用するため、体内に磁性を持つ金属があると、その磁場に反応して様々な影響を引き起こす可能性があります。現代のインプラントの主流である「インプラント体」(顎の骨に埋め込む部分)は、ほとんどがチタンまたはチタン合金でできています。チタンは、生体との親和性が非常に高く、骨としっかり結合する性質を持っていますが、同時に「非磁性体」または「弱磁性体」であるという特徴があります。これは、チタンがMRIの強力な磁場に引き寄せられたり、磁化されたりすることがほとんどないため、インプラント本体そのものがMRI検査を妨げたり、危険を引き起こしたりする可能性は極めて低いことを意味します。しかし、インプラントの上部構造(被せ物)やアバットメント(インプラント体と上部構造をつなぐ部品)には、インプラント体とは異なる金属が使用されていることがあります。問題となりうる金属は、「強磁性体」と呼ばれる、磁石に強く引きつけられる性質を持つ金属です。例えば、鉄やニッケルなどがこれにあたります。歯科材料としては、昔の差し歯やブリッジに使われていた金属(一部のステンレス合金など)に強磁性体が含まれていることがありました。インプラントの上部構造で使われる金属としては、金合金、プラチナ合金、金銀パラジウム合金などがあります。このうち、金銀パラジウム合金は「弱磁性体」や「常磁性体」に分類され、強磁性体ほどではありませんが、MRIの磁場に反応して画像の歪み(アーチファクト)を生じさせる可能性があります。特に、インプラントが頭部や頚部にある場合、MRIの撮影範囲に金属が入ると、その周囲の画像が大きく乱れ、診断が困難になることがあります。金合金やプラチナ合金は比較的磁性の影響が少ないとされています。