大人の歯がグラついてくると、「もう抜くしかないのかな」と不安に思う方が多いでしょう。しかし、グラついているからといって、必ずしも全ての歯が抜歯の対象となるわけではありません。歯科医師は、その歯を残せるかどうか、あるいは抜歯が必要かどうかを、様々な観点から総合的に判断します。まず最も重要な判断材料は、歯の「グラつきの程度」と「歯を支えている骨(歯槽骨)の状態」です。グラつきが軽度で、歯周病の初期段階であれば、適切な歯周病治療によって歯茎や骨の状態を改善し、歯の揺れを軽減できる可能性があります。しかし、グラつきが重度で、歯槽骨の吸収が著しく進んでいる場合、歯を支える土台がほとんど残っていないため、残念ながら歯を残すことが難しくなります。これはレントゲン写真や歯周ポケットの測定などによって詳しく調べられます。次に、「歯の根の状態」も判断に大きく影響します。歯の根が縦に割れてしまっている(歯根破折)場合や、根の先に非常に大きな病巣(膿)がある場合など、根に深刻な問題がある場合は、歯を残すのが困難なことが多いです。また、「歯の戦略的な重要性」も考慮されます。そのグラついている歯が、噛み合わせにおいて重要な役割を果たしているか、あるいは将来的にブリッジや入れ歯の土台として使える可能性があるかなども検討されます。患者さんの「全身状態」や「治療への希望」も判断材料となります。全身疾患があり、抜歯やその後の治療が体に負担をかける場合は慎重な判断が必要ですし、患者さんが歯を残す治療を強く希望するか、あるいは抜歯後の治療(インプラントなど)が可能かどうかも考慮されます。歯科医師はこれらの要素を総合的に評価し、その歯を残す場合の予後と、抜歯した場合のメリット・デメリットを患者さんに丁寧に説明し、患者さんと共に最善の治療方針を決定します。痛くない抜歯や、その後の治療も含めて、十分に話し合うことが大切です。